※ 取りとめの無い話 ※
「今日はもう上がりか、西武有楽町」
青い制服を着た子供に話しかけると、彼はこくりと頷いた
「今日は5時で終業だ!」
子供はウズウズとホームの端を見ている
「そっか、お疲れ」
有楽町は短く答え、視線を同じく向ける
程なくして、子供と同じ青い制服が階段を降りて現れた
「西武有楽町」
彼が小走りでコチラに来るのを見ると、待っていられなくなったのか西武有楽町もそちらに向かって駆け出した
「池袋!」
駆け寄ったそのままの勢いで、池袋の腹部に抱きつく
「こら、まだ3分、仕事の時間が残っている」
そう言いながらも、池袋の手は優しくその身を抱きとめ、頭を撫でる
「よっ、お疲れ」
暖かい光景を眺めていた有楽町は、片手を上げて池袋に声をかけた
「む、居たのか」
「いたよっ、ずっと居たよ!」
ぞんざいな扱いに思わず叫ぶが、彼の腕の中に居る西武有楽町の笑顔を見て、それ以上声を荒げることを抑える
「西武有楽町は、今日はもう上がりなんだろう?」
「あぁ、家に送り届けたら、後はわたしが引き継ぐ
すなまいが、少しの間、駅を頼む」
「了解、了解」
有楽町が頷くのと同時に、近隣の学校から、5時を知らせるチャイムが響いた
池袋は子供から身体を離し、その身をクルリと回す
「西武有楽町、有楽町に挨拶」
「先に失礼するぞ!」
寛大な言い方は、その背にいる青年の口真似で、その微笑ましさに破顔する
「うん、お疲れ。 また明日な」
池袋は二人の応答に満足げに頷いた
「帰るぞ、西武有楽町」
そして、極自然な動作で手を差し出す
「はい!」
子供も、その手を取り、隣に並んだ
いつもは凛と背筋を伸ばす池袋が、この時だけは身を屈める
まだ小さな子供の手を引くには、己の身長がありすぎるせいだ
その後姿は、少し不恰好だが、繋がれた手は酷く暖かに見える
優しい風景だ
とてもとても、優しい風景だ
有楽町は、その後ろ姿を見送りながら、笑みを零した
きっと、あの優しい風景は夕焼けに包まれて、彼らの家まで続いている
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西武有楽町を中心とした、西武の擬似家族が好きです