※ メンタル的に弱い池袋 ※
※ メンタル的にガッタガタな池袋 ※
※ 苦手な方は読まないでください ※
困った、と有楽町は思った
本当は何も困っていない
けれど、困る事にした
「池袋、頼む
そろそろ復帰してくれ」
有楽町は今、押し倒されている
場所は池袋駅・西武の休憩室
「なぁ、池袋
ほら、こんな姿、お前んちの有楽町とかに見られたらどうするんだ」
有楽町はコートの背を掴み、ぐいぐいと引っ張る
「知らない、何も知らない」
けれど、池袋は子供のように首を振り、それを拒絶する
有楽町の肩に顔を埋め、胸元にしがみ付き、掠れた喉で何度も呼吸を繰り返す
嗚呼、泣いている
自分より体格のいい男に乗り上げられ、有楽町は小さくため息をついた
彼に聞こえないように小さく、小さく
彼はとっくの昔に壊れているのだと、有楽町に言ったのは西武の中の誰だったか
普段の彼は『かのひと』の模造だ
その殻で必死に自分を守っている
本当の彼は、今でも机の下で震えて泣いるのだ
出ておいでと言っても、もう彼はソコから出られない
机の下で育ってしまった彼の身体は、そこにピッタリとはまってしまった
昔、そんな本を読んだ、有楽町は考えた
『山椒魚』と言う本だ
あぁ、でも違うか
あの山椒魚が岩屋から出られなくなった理由はどこか間抜けているが、
彼が机の下から出られなくなった理由はもっと追い詰められてしまった事情がある
普段においては何の支障も無い
彼は傲慢で、尊大で、敬愛する『かのひと』のために走り続ける
けれどふとした拍子に、閉じこもる殻が剥がれてしまう
現れるのは、『明日』に怯える机の下の彼だ
「嫌だ、嫌だ
何処にも行きたくない
何もしなくない
明日なんていらない
わたしは昨日の昨日の昨日の、もっと前の昨日が欲しい」
有楽町の肩に顔を埋めたまま、まるで未来を呪うように彼は言う
「かの方が居ない世界なんて」
有楽町にしがみ付きながら、彼は有楽町を見ない
机の下で震える彼には、薄闇しか見えていない
仕方ない
有楽町は、また小さくため息をついた
出れない彼
見ない彼
見えない彼
仕方ない
こちらから手を伸ばそう
有楽町は床に投げ出していた腕で、そっと彼の頭を抱く
「大丈夫、怖くないよ」
会話なんて成立しなくていい
今の彼に、問答など意味をなさない
ただ、安堵させれればいい
また、傲慢で、尊大で、敬愛する『かのひと』のために走り続ける西武池袋であれるように
机の下の彼が、せめて、穏やかに眠れるように
「だいじょうぶだよ」
なんども繰り返し頭を撫でる
段々と、彼の呼吸が和らいでいくのが分かった
「おやすみ、武蔵野」
彼が小さく頷く
有楽町は撫でる手を止め、ただそのコウベを抱く
きっと、数秒後に顔を上げた時、彼はもう傲慢で、尊大で、敬愛する『かのひと』のために走り続ける池袋に戻っている
今晩、池袋はきっと、彼の過去が眠る、机の上で眠るのだろう
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フィーリングSS
武蔵野鉄道と西武池袋は同一人物なワケですが、
内面的なところを考えると、色々ドロドロしてくる
別に、二重人格と言うわけではないのですが