※ 池袋と拝島の過去話 ※
※ どちらかといえば、拝島メイン ※
※ 思い立ったことをいくつかポツポツと ※
※ 当家では、拝島=多摩湖鉄道・小平線 という過去設定を使っています ※
※ 妄想模造猛々しい ※
※ 微妙に百合っぽい ※
※ 妄想模造猛々しい(大事なことなので2度言いました) ※
== 0'00 ==================================
神のような人が再び目の前に現れた時、
かの方は片手に自身の利権書を持ち、3歩後ろに彼を控えさせていた
「こいつはオレの鉄道だ」
神のような人は乱暴にも親指で背後の彼を示す
そしてその手を返し、人差し指で自分を示した
「これからはお前もオレの鉄道だ」
クックと、お世辞にも人が良さそうには見えない笑みでかの方は喉を震わせた
その後ろで、彼は微笑んでいた
静かに、静かに
何よりも優しく
== 0'02 ==================================
「改めまして、はじめまして」
黒髪を肩まで伸ばした彼は買い物カゴを手にしたまま、頭を下げた
「多摩湖鉄道の小平線です
小平と呼んでいただければ結構ですので」
小平は柔らかくほほ笑みかける
「・・・あ、えっと・・・武蔵野、です・・・」
武蔵野はたじろぐ様に視線を彷徨わせながら、自身も頭を下げた
「営業再開までの間、面倒を見るようにと社長に言われてやってきました
料理・洗濯・片付けは得意ですから、家事関係のことは気軽に言ってください」
彼はそう言うと、早速ですが、と手にした買い物カゴを持ち上げた
「少し早いですが、夕飯を作りますね。 好き嫌いはありますか?」
武蔵野が首を振ると、小平はまた微笑んでそれは良かったと頷いた
「そう、あと敬語はやめてください
私たちはもう、家族みたいなものですから」
そう言ってから、小平は悩むように首をかしげる
「っと、私の方が敬語で話してますね・・・
・・・えっと、難しいものですね・・・」
小平は至極真面目に、自身の口調について悩み、独り言のように武蔵野の目の前で練習する
そんな姿が妙に面白くて、武蔵野は思わず笑った
「難しいことはない
どうぞよろしくと、言ってしまえば良いんだ」
武蔵野の言葉に小平はきょとんとした後、嬉しそうに笑った
「そうか、それで良いのか」
そして、武蔵野に向かって手を差し出す
「どうぞよろしく、武蔵野」
「こちらこそよろしく、小平」
つないだ手は、細長く冷たかったが、
その笑みは暖かかった
== 0'12 ==================================
「こっ、こだ・・・っ、小平!」
夕食の支度をしていた小平の背に、息巻いた声がかけられた
「お帰り、武蔵野。 もう少しで夕飯が出来上がるから、机出して――」
「夕食なぞどうでもいいっ! ちょっと来いっ!!」
居間の畳を叩かれ、小平は仕方なしに鍋を火から上げると、作りかけの料理を簡単にまとめる
「どうかしたか?」
小平は武蔵野の正面に座り、首をかしげた
「会議に行ってきた」
「知っているよ」
「し、社長から・・・、話を聞いた」
「何を?」
「か、か・・・、会社を・・・合併すると・・・」
「そのことか」
武蔵野の震える声に対し、小平は朗らかに答える
「こっ、小平! 知っていたのかっ!」
「あぁ、先日、社長に呼ばれて先に聞いた
社長の口から聞いた方が嬉しいだろうと思って、私は黙っていたんだが・・・」
「嬉しいものかっ! お前っ、話をちゃんと聞いたのか」
「聞いたよ。 『武蔵野鉄道』に合併するのだろう?」
小平は、『多摩湖鉄道・小平線』は事もなげに言った
「本当なら・・・、お前と社長の本来の会社である多摩湖鉄道の名を残すべきなんだ」
「社長自身がお決めになったことだし、私はその理由にも納得しているよ
今後、ふたつの会社が一緒になって上手くやっていくためなんだ」
「・・・お前の名前がなくなる」
「見えなくなるだけだ。 私は消えないし、変わらない」
ずんずんと背が丸くなり、俯いていく武蔵野のを肩を両手で支え、顔を上げさせる
「顔をあげて、背筋を伸ばして」
その両腕は、力強く武蔵野を支える
「武蔵野」
その両眼は、優しく武蔵野を見つめる
「胸を張って走るんだ
あなたが走ってくれれば、私は変わらず、あなたを支えて走ることができる
名前が変わっても、失っても、この身と意識がある限りずっと」
小平は笑う
武蔵野の顔を愛おしげに見つめて、笑う
== 0'36 ==================================
その眼は、線路の続く先を見ていた
「・・・このあたりは桜が綺麗なんだ」
小平がポツリと呟いた
「乗客が、窓から身を乗り出すようにしてその風景を眺めていた
誰も彼もが笑いながら・・・見て・・いて・、
私は・・・そんな人の顔を見る、の・・・が好き・・・だった・・・」
掠れる声をかき集めるように、武蔵野はその肩を後ろから抱く
「過去形で言うな。 すぐにまた、人々の笑顔を乗せる日が来る」
小平は腕に顔をうずめるように頷き、弱弱しくも微笑んだ
「全部終わったら、この続きを作ろう。 この線路の続きを」
「・・・どこまで行きたい?」
「青梅まで。 桜を追いかけるように、ずっと走っていきたい」
「ずいぶん遠くまで行きたがるんだな」
「もっと遠くまで行きたいぐらいだよ」
二人でクスクスと笑って、揃って空を見上げた
美しい青い空を、銀色の鳥が醜い音を響かせながら飛んでいる
「・・・戦争なんて、誰も喜びはしないのにね」
小平は眼を伏せて、己の線路の果てを見やった
== 0'36 ==================================
「なぁなぁなぁなぁなぁなぁなぁなぁっ、小平!
腹減ったっ、腹減ったーッ!!」
台所に立つ小平の背中に体当たりすると、新宿はわんわんと声をあげた
「もうすぐできるから、大人しく居間で待ってて・・・
・・・って、つまみ食いするなっ!!」
小平が手にしたおたまで新宿の頭を殴りつけると、彼はわざとらしく泣き声をあげた
「国分寺ーっ! 小平が殴ったーっ!」
「邪魔したお前が悪い」
国分寺は新宿の体を軽々と肩に担ぎあげると、そのまま居間へ連行する
「小平、何か手伝うか?」
入れ替わりに台所へやってきた池袋は、袖をまくりながら小平の手元を覗き込む
「平気。武蔵野も居間で待って―――
あー、あー、また間違えた・・・」
小平は鍋をかき混ぜながら、首を左右へ揺らす
「どちらでもかまわん。 わたしであることに変わりはないのだから」
そんな小平を見ながら、池袋はフフと笑う
「それはそうだけど・・・
でも、『家族』も増えたし、いろんなことに早く慣れなくてはいけないね」
大きくなった鍋を眺め、小平は嬉しそうに微笑む
「ねぇ、池袋」
「うん?」
「変わっていくのも、悪くないものだろう?」
「・・・そうだな」
== 0'59 ==================================
「・・・うん、さっき、こっちにも連絡来た
うん、うん、平気、うん、私は大丈夫
本当だよ、大丈夫
それよりも池袋のこと、うん、うん・・・
偶然でも、誰か傍にいて良かった・・・うん、うん・・・
ごめん、新宿は平気? うん、そう・・・、うん、無理はしないようにね
じゃあ、申し訳ないけど池袋のコト、お願い
ないとは思うけど・・・、彼が変な気起こしたりしないように、うん、うん
・・・うん、大丈夫、そっちは私が見に行くから
新宿の方は国分寺に、うん、うん、あとで連絡入れておく
・・・うん、じゃあ、またあとで」
受話器を下ろすと、小平はその場に崩れ落ちた
つま先から、指先まで震えが広がっていく
先ほどまで、新宿との会話で平静を保てていたことが嘘のようだ
視野が狭まり、脳髄がクラクラとする
このまま、気を失って、眠って、目覚めたら、全てが夢だったのだと、そんな、事にはならない、だろうか
先ほど、かの方の訃報が届いた
ほぼ同時に届いたのは、その直後に池袋が倒れてしまったということだった
幸い、偶然にも新宿が傍におり、彼のことは新宿が看ていてくれている
「――しっかりしろ」
小平は拳を握りしめ、震える膝で立ち上がる
「しっかりしろ、大丈夫だ」
まず、国分寺に連絡をして、状況を把握
大事なければ、池袋に代わって、池袋線の方の業務につく
「大丈夫だ、できる」
自身に言い聞かせるように、小平は繰り返す
私は、多摩湖鉄道・小平線
私は、武蔵野鉄道・小平線
私は、西武鉄道・小平線
誰よりも長く、かの方に寄り添った路線
そして、誰よりも深く、彼と寄り添った路線
「だから、大丈夫」
小平は再度呟き、顔を上げた
涙を流すことはなかった
== 1'00 ==================================
「拝島」
その名を呼ぶと、彼は肩まで伸ばした金糸を揺らして振り返った
「どうした、池袋?」
彼はいつものように、柔らかくほほ笑む
「・・・新しい名前だな」
「あぁ、やっと全通した証しだ」
「色んな事が変わってしまった」
「そんなことはないよ、私は何も変わっていない」
拝島の手が、池袋の長くのばした前髪に触れる
「変われなかったんだ、何も・・・」
彼は微笑んでいた
静かに、静かに
何よりも切なく
-----------------------------------------------------
ハイジくんは、多摩湖鉄道=つつみさま直轄の鉄道の出身というプライドと、
自分が武蔵野を守らなきゃという信念から、誰にも弱音を吐かない子に成長
『0'36』の下りは、小平の陸軍施設へ引き込み線を敷居したあたりの妄想
人を乗せることが仕事なのに、兵器を輸送するのはかなりしんどかったのでは?という設定