※ 眼球にまつわるエトセトラ ※
※ 狂的表現有 ※
※ 東西南北・有楽町池袋・副都心池袋・八高拝島 ※
※ メトロは生まれつき、眼の色がラインカラーという設定を当家は推しています ※
#a.東西南北
晴れの日、休みの日、東西は僕を連れて外へ行く
僕を放っておくと、日がな日頃、年がら年中、引きこもってしまうからだ
滅多に見ない日差しは眼に痛くて、僕はいっそアイマスクで瞼を覆ってしまいたい気持ちになる
「おいっ、外に出てまで寝るなっ!」
頭上のトレードマークを奪い取られ、僕は渋々と東西の後ろを歩く
「今日は風もないし、日差しも暖かくていい日だな」
「そうだねー」
「毎日がこうならオレも楽なのにな」
「僕には関係ないからどっちでもイイよ」
「よくねぇってんだよ、馬鹿」
東西は振り返り、僕の頭をペシリと平手で叩く
「青空は大事なんだぞ、ちゃんと拝んどけ、引きこもり」
その言葉には真摯な実感がこもっており、僕は思わず笑う
「そうだね、東西にとってはそうだよね」
「笑うな、マジで切実なんだよ、オレにとっては!」
二人でゲラゲラ笑いながら、青空の下を歩く
でも、本当は、僕にとっては青空なんてどうでもいい
「南北」
東西が笑ってる
「なぁに?」
東西の綺麗な青色の、空色の眼が笑ってる
「本当にいい天気だな」
空なんかより綺麗な空色の眼が、
君の眼さえ、君の眼さえ、君の眼さえ、
君の眼さえあれば、空なんていらない
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#b.有楽町池袋
「オレの眼は生まれつきなんだ」
それを聞いた瞬間、わたしの胸を這い上がった感情は何だったのだろうか
「オレの金と、丸ノ内の赤はちょっと目立つかな
半蔵門の紫も結構浮くけど、アイツはキャラがキャラだからあんまり違和感がないのかも」
わたしの感情などそっちのけで、有楽町の言葉が続く
「でも、生まれつきだから仕方ないって、けっこう前に諦めた
ほら、髪の毛も金にすればそんなに目立たないし」
「・・・逆に貴様のキャラクターからは浮いてるがな」
「えぇっ、それ似合わないってコト?!」
「鏡で見直してみろ」
わたしはそれだけ言い放つと有楽町の前から立ち去った
立ち去らなくてはいけなかった
そうしなくては、彼の眼を抉り出してしまいそうだった
あぁ、なんて、なんて羨ましいのだろう、妬ましいのだろう
自身が望んでやまぬその瞳の色を、彼は生まれながらに持っている
いつだってマガイモノが懐くのは、ホンモノに対する羨望と嫉妬なのだ
金色、綺麗な金色
輝く太陽のような色、焦がれる導の色
貴様の眼が、貴様の眼が、貴様の眼が、
臓腑を焼くほどに憎らしかった
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#c.副都心池袋
反射鏡を埋め込んだような眼だと思った
前を見ているふりをして、自分の内面、過去しか見えてない
自分と正反対だ
生まれたての自分には、振り返るべき過去がない
望遠鏡を眼に埋め込むように、前を、未来を見ていくしかない
「池袋さん」
マガイモノの金色が僕の方を向く
向くだけだ、見ていない
「池袋さん」
「一度で聞こえている、なんだ?」
「聞こえてませんよ、池袋さん」
「・・・聞こえていないのは貴様だろう? 気でも狂ったか?」
「聞こえていますし、狂ってもいませんよ、池袋さん」
「・・・・・・馬鹿を相手にしている暇はない。働け」
立ち去ろうとした彼の腕を、僕は乱暴につかんで、振り向かせた
「貴様・・・っ」
苛立たしげに半分しか見えない目元を歪める
「僕を見てください」
「わたしの眼には、貴様の腹立たしい顔がしっかり映っているが?」
「ウソツキ」
僕の手が伸びる
「――っ」
その手の意図を察したのか、僕が触れる前に、彼は前髪ごと、自身の左目を手で覆った
「僕を見てください」
繰り返した言葉に、彼の瞳が震える
「その両目で、貴方の今で、今日という現実で、
僕を見てください」
「――っ」
彼の唇は、怯えるように戦慄いた
「ねぇ、池袋さん」
ズィと顔を近づけ、僕は笑った
僕を見て、その眼で、その両眼で、僕を見て
もし、それが叶わず、貴方のその眼が過去を見続けるというなら、
貴方の眼を、貴方の眼を、貴方の眼を、
未来しかない、僕にください
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#d.八高拝島
サングラスを少しずらし、覗かせた眼はシルバーグレイ
「ずっと昔はね、緑色だったんだよ」
その眼をすぐに隠し、彼は言った
「それでね、昔にいっぱい泣いて、少し昔にまたいっぱい泣いたら、
色も一緒に流れ落ちちゃったんだ」
本当だよと念を押して、彼はあははと笑う
泣いたことなんて無いように、彼は笑う
「緑は緑で好きだったけれど、今の僕にはこの色がよく似合ってると思うんだ」
「なら隠さず、見せれば良いだろう?」
私の何気ない一言に、彼は苦く笑う
「見せてもいいけど、僕が見ていられないんだ」
世界はまぶしいと、彼は言った
そうだ、世界は眩い
過去に生きる者にとって、これほどに光り輝くものはない
網膜を真っ白にして、眼の前の景色など消してしまうほどに
――けれど、
「世界がまぶしいと思うのは、お前が俯いて、薄闇ばかり見てきたからだ」
私は手を伸ばし、八高の顔からサングラスを奪い取る
「ぁ」
私の行動が予想外だったのか、八高は珍しく余裕を崩した声を漏らす
「お前の眼は、まだ前を見れる」
「――誰かと違って・・・かい?」
「・・・」
私は外したサングラスを、彼の手に落とし、その横をすり抜けた
泣いて泣いて、色を失うまで泣いて
きっと、泣き方を忘れるまで泣いて
そうして出来た白銀の眼
お前の眼は、お前の眼は、お前の眼は、
私には光り輝いて見え、愛おしいと思った