※ 雛祭りを男で祝っても面白くないので、 ※
※ 女体化でお送りします ※
※ いつも通り、有楽町池袋・八高拝島・東西南北 ※
※ 有楽町池袋のみ、雰囲気エロスに付き ※
※ もちろん、受けがにょただよ☆ ※
☆1・有楽町池袋
「…あの、ごめん、な…?」
有楽町はベッドに横たわる彼女に水を注いだグラスを差し出し、心底申し訳なさそうに言った
「……」
それを受け取りながら、池袋は何か言おうとしたが、掠れて声にならなかった
その頬に残る涙の跡も、僅かに腫れた目元も、乾いた唇も、全てが痛々しい
「本当にごめん、オレ、全然手加減できなくて・・・
まさか、初めてだったなんて思わなくて・・・」
「・・・処女には見えなかったか・・・?」
水を一口含み、渇きを癒した喉で、彼女はフフと笑う
「誰にでも足を開く、阿婆擦れだと?」
「違うっ、そう言う意味じゃない!」
意地の悪い冗談に、有楽町が思わず叫ぶ
「ただ・・・っ、お前はそうゆう…っ、なんていうか・・・
大事なものは全部・・・、『あのひと』にあげてしまってるものだと・・・思ってた…から…」
しかも、その相手はある一面で、好色として有名だった人物だ
自身を心から慕い、見目も綺麗な彼女に触れないわけはないと考えていた
だが池袋は、その言葉にきょとんと眼を丸くした後、また笑って言った
「お前は、自動改札や券売機に発情するか?」
「え、ぁ、は?」
あまりに突飛な問いかけに、有楽町は間抜けた声を上げる
「しないだろう、そういう事だ」
「いや、ゴメン。 意味が分からない…」
首を傾げる有楽町に向かい、池袋は事もなげに言った
「『かの方』にとって、
わたしは便利な道具でしかなかったという意味だ」
あまりに平然と言われた言葉に、有楽町は眼を見開いた
「ハサミや電子レンジがどれだけ便利で身近なものでも、まさか劣情を抱くことはないだろう?
かの方にとって、わたしはそこにあるモノで便利な道具
だが、わたしはそれで良かった
かの方から愛情を与えられるだけの女とわたしは違う
わたしはかの方のために働き、かの方へ利益を捧げる事が出来る
わたしはそれで良かった、わたしはそれが良かった
わたしは――」
かの方の道具で幸せだった
全てを言い終わる前に、それを遮るように有楽町の腕が彼女の痩身を抱いた
首筋に、鎖骨に、乳房に、下腹部に、そしてその下に至るまで、有楽町が触れた痕が残っている
「…好きだよ」
そしてまた一つ、今度は耳元にその痕を増やす
「…何度も聞いた」
「何度でも言う、好きだ」
頬、目尻、額
唇ですべてをめぐるように、何度も口付ける
「オレはお前を愛してる」
何度も繰り返して、与える愛ではなく、与えられる愛の幸せに気付いてほしいと思った
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☆2・八高拝島
「よっ、と…」
拝島は段ボールを抱えなおし、小さく息を吐く
箱の中身は、近日中のキャンペーンの告知用広告
大きなものではないが、重さがあるそれを抱えて、拝島駅を歩いていた
「あ、拝島さん」
声をかけられて振り返ると、自社の駅員が手を振っていた
「どうかした?」
そちらに歩み寄ると、駅員は似たような箱を持ち上げた
「今から、小平の方へ行かれるんですよね?
もしよければ、これを…と思ったのですが…」
拝島が既に荷物を抱えているのに気づき、駅員は申し訳なさそうに肩をすくめた
彼が持つ箱の中身も、恐らく同じような広告なのだろう
「大丈夫。一緒に持って行くから、上に積んで」
顎で自身が抱える段ボールの上を示し、拝島がほほ笑みかけると、駅員は首を横に振った
「いえっ、けっこう重いですから! 呼び止めてしまってすみませんっ」
見ている方が申し訳なく思うくらい、駅員は深く頭を下げる
「平気だよ。仕事はいっぺんに済んだ方が楽だしね」
「でも…」
そんな問答を何度か繰り返し、硬直状態に陥りかけた二人を救ったのは気が抜けそうな明るい声
「じゃあ、僕が手伝おうか」
そう言うと、声の主、JR八高線は駅員の手からヒョイと荷物を取り上げた
「はっ、八高ッ!!」
その姿を視界に入れると、拝島がすぐさま眼を鋭くする
「はぁい、貴方の八高です」
サングラスで見えないにも関わらず、八高はウィンクして拝島に笑いかける
「小平までコレを持って、一緒に行けばいいんだろう?
お安い御用さ、僕におまかせあれ」
腕の荷物を軽々と持ち、拝島と駅員の顔を見やる
駅員はほっと安堵したような顔を見せるが、拝島はより顔を険しくした
「お前なんかの手を借りなくても、私ひとりで平気だ! 荷物を寄こせっ」
ぎっと睨みつけるが、八高に通じるわけもなく、逆に笑いかけてみせる
そればかりか、するりと拝島の正面に立ち、器用にも片手で荷物を持つと、
「無理しちゃ駄目だよ
君ひとりの身体じゃないんだからさ」
そう言って、拝島の下腹部を開いた手で撫でた
「――――――――――」
拝島は自分の喉が、ヒュっとだけ鳴ったのを聞いた
セクハラというよりも完全な痴漢行為であるその手をそうだが、それ以上に八高の発言が彼女の脳内を真っ白にした
「ぅ…っ、うぇえぇえぇえぇえぇええぇっぇぇえええぇ~ッ?!」
駅構内全域に響いたのではないかと思われる駅員の絶叫がそんな拝島を現実に戻した
「はっ、はいじ、拝島さ…、拝島さんが…っ!!」
「ばっ、馬鹿かっ!! 国鉄の戯言を信じるなっ!!」
「あぁ、ゴメン。 まだ、みんなには言ってなかったんだ
でも、安心してね。僕はちゃんと父親だって認知するからね」
「拝島さんと…、拝島さんと八高さんが…、そんな…っ」
「ちょ…っ、待てっ、事実無根だッ!! なぜ私がこんな男とっ!!」
「照れないでいいじゃないか
名前は、男の子だったらペーター、女の子だったらクララにしようって二人で決めたんだよ」
「もうそんな話まで…っ!!」
「いやいやいやいやっ、そのネーミングはまず無いだろう?!」
「できちゃった結婚って事になるけど、安心してね、
僕がちゃんと君も子供のことも幸せに――」
「もう黙れっ、馬鹿鳩国鉄ーッ!!」
ついに堪忍袋の緒が切れた拝島は、抱えていた段ボール箱を全力で八高に向かって投げつけた…
その騒動は、偶然拝島駅に居合わせた青梅線より、中央線に伝わり、中央線から国分寺へ歪んだ形で伝わることとなった
後日、群青のコートを斑に赤く染めた国分寺を拝島駅・JR側ホームにて見かけたという話があるが、真実を知る者は居ないようである…
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☆3・東西南北
夜、残った書類を片付けた東西は最後のサインをもらいに丸ノ内の部屋の前に来ていた
「おーい、丸ノ内ー」
ノックをし、返事を待つが返ってこない
部屋には在室の札が出ており、首をかしげて待っていると、中から笑い声が聞こえた
「? おい、丸ノ内ー。居るのか?」
「居るぞー! 今、手が離せない!」
返ってきた声を、勝手に入ってこいという意味だと解釈し、東西はドアノブを回す
玄関となっている小さなスペースには、丸ノ内の大きな皮靴と、見覚えのある女性物の靴
なんとなく嫌な予感がし、自身の靴を脱ぎすて、小走りでリビングを目指した
「うわっ、ズルイっ! ソレなしー!」
「さっきお前も同じことやったろ、仕返しだ!」
「僕はいいの! 丸ノ内はダメ!」
「……何やってんだ、お前ら…」
部屋には主の丸ノ内と、予想通り南北の姿があった
二人はテレビの前でコントローラーをにぎっている
テレビ画面に映るのは、今は懐かしのドット絵の稚拙な映像
「マリオ、最初のヤツっ」
南北は床に寝転がった姿勢で、画面を見たままに答える
しかし、次の瞬間、赤いマリオが緑のマリオを踏みつけ、そのまま緑のマリオはカニに引かれた
「うー、負けたー」
南北がコントローラーを落とし、床に伸びる
どうやら決着がついたらしい
「悪かったな、東西
なんとなく始めたら面白くなっちゃって」
丸ノ内が年に合わない顔で笑いながら、ゲーム機のスイッチを切る
「やっぱり、ゲームは2Dだよねー」
身体を起こし、ぐっと背筋と両腕を伸ばす南北の姿を見て、東西は彼女の頭を叩いた
「む、痛い」
南北は口先を尖らせるが、東西は構わず怒鳴りつける
「南北っ! お前、またそんな恰好で…っ!!!」
東西が『そんな恰好』と言われた南北は己の服装を見直す
上には白いシャツ。 ただし、ボタンが腹部近くまで開いている
下着はつけておらず、決して小さくはない胸の膨らみが半分さらけ出されていた
下は黒色のいつものスラックス。 ただし、腰回りが元々緩い上に、ファスナーを下げていたため、恥骨付近までずりおち、黒のショーツが覗いていた
「……問題なし!」
「ありだよッ!」
東西の手はもう一度、彼女の頭を叩いた
「丸ノ内も注意しろよ! 女なんだぞ、アイツ!」
目的であった書類を渡し、東西が言った
南北は納得した風でなかったが、とりあえず東西に頭を叩かれるのが嫌になり服装を整えている
「んー、でも家に居る時はくつろいだ格好してればいいんじゃないか?」
丸ノ内は特に考えることもなく答えを返し、文面に眼を通す
「でも、お前は男で、あいつは女!
胸だ下着だを見せた格好で一緒に居ていいわけないだろ!」
「東西、そんなところ見てたんだー、やーらしー」
「東西、そんなこと考えてたんだー、やーらしー」
「後楽園コンビ、ウザッ!!」
変に呼吸の合った丸ノ内と南北の反応に、怒りを露骨にする
「まぁ、とにかく、だ
オレは南北の事は娘みたいなもんだと思ってるから、例え南北が全裸でベッドに居たとしても、何か起こることはないよ」
「物凄い嫌な例えでフォローしてくれてありがとうっ」
東西はサインが書き込まれた書類をひったくる
「直したいんなら南北に直接言え」
「言っても聞かねぇんだよ」
「それは、お前がちゃんと理由を言わないからだぞ
ちゃんと言えば、南北は必ずお前の言う事をきく」
丸ノ内が東西にだけ聞こえるように言った言葉に、顔を苦くする
「……そうゆう言い方はやめてくれ。 あいつはオレの所有物じゃない」
「でも、孤独なお姫様の心は、王子様のものだ
……そろそろ覚悟を決めてガラスのお城から連れ出さないと、取り返しがつかなくなるぞ」
不意に真剣みを帯びた声に、背筋が冷えた
「東西! もう部屋に帰るでしょ? 一緒に帰ろ」
服を整え終わった南北は無邪気に笑い、二人を見る
「? どうかした?」
丸ノ内と東西の会話のことなど知らない少女は不思議そうに首を傾げる
「…どうもしない。 帰るぞ」
東西がくるりとドアへ向かうと、その後ろに南北がついて行く
「南北、次は忍者タートルズな!」
「あと、くにおくんの時代劇も! じゃあ、おやすみ」
南北が手を振り、部屋のドアを閉めた
東西は隣を歩く南北を何気なく見やる
顔立ちは中性的だが、視線を下に落としていけば確かに女性だと気づく
その一人称に始まり、彼女自身に女性としての自覚が抜けているように思える
否、故意に消してしまったのかもしれない
とんでもない話だが、南北は自分が女だから一人ぼっちで置いて行かれたのだと思っていたそうだ
その誤解はとうに解けたと思っていたが、今でも引きずるものがあるようだ
「南北」
「ん?」
「あーゆー格好を人前でするなって何度も言ってるだろ、いい加減覚えろ」
「なんで?」
「…なんでって…」
――理由を言え、そうすれば南北はお前のいう事を聞く
「…お前は女なんだから、自衛しないと、いつか危ない目に遭うぞ」
「平気だよ。僕、可愛くないから」
南北はヘラっと笑って、自分の部屋へ帰って行った
「…あー、言えるわけねぇじゃん…」
東西は一人、通路で呟いた
――理由を、本当の理由を
「オレ以外の前で、無防備な姿見せんな、なんて…
言えるわけねぇじゃん…」