※ 西武秩父ってさ、も、ちょカッコイイよね! ※
※ って、主張したいだけのSS ※
それは、西武秩父が開業して間もない頃の話
「たまにはアンタの話が聞きたいな」
差し出された茶碗を受け取りながら、西武秩父が言った
「わたしの?」
池袋は自身の茶碗に米を盛りつけながら首を傾げる
「そう、アンタのこと」
西武秩父が笑いかけると、池袋は長い前髪を揺らし、少し困ったように微笑んだ
開業して間もないころ、不慣れな西武秩父を手伝って、池袋は何かと世話を焼いていた
自線においては、初めてとなる後輩が嬉しかったのもあるだろうが、
それ以上に、数年前に失った大きなものをどうにか埋めようと、乗り越えようとしている風が強かった
その日も、吾野の武蔵野鉄道時代から使っている宿舎に二人で泊まり、
今日の反省や、明日の支度を終えての夕食であった
「特に…、話すような話もないが…?」
自分で作った夕食に箸をつけながら、池袋が呟く
「アンタも今まで走ってきたんだ。 何もないなんてコトはないだろう?」
池袋が今まで西武秩父に話してきたのは、西武としての沿革や、『かの方』の偉業やその功績ばかりだった
その話の中で、西武秩父の胸に重なって行ったのは、眼の前の彼への感情
「オレはまだ、アンタのことを何も知らない」
懇願するように言えば、池袋はまたひとつ、困ったような笑みをこぼした
けれど、その笑みのまま小さくうなずく
「そうだな…、では、夕食を食べ終えたら少しだけ…
わたしの話をしようか」
西武秩父が嬉しそうに笑うのを見て、池袋は笑みをはにかむような色に変えた
「何から話そうか
こうして、自身を振り返るというのは、中々に気恥ずかしいな」
夕食を片付けたちゃぶ台には湯のみが二つ
その一つを手に取り、池袋がフフと微笑む
「まぁ、なんだ。 正直、実は何でもいいんだ、アンタの事なら
聞かれたくないこととか、話したくないコトもあるだろうからさ、
適当に、話せることとか、話したいこととか、そんなんでイイんだ」
改めて身構えると、気恥かしいのは西武秩父も同じで、出来るだけ茶化して池袋に話を促す
「そうだな…、では、わたしが『武蔵野鉄道』と呼ばれていたころの話をしようか」
本当に面白いことなどないからな、と釘を刺したうえで、彼はぽつりぽつりと話し始めた
開業してすぐのこと、その頃から東上とは仲が悪かったらしい
電化したときのこと、彼にとっても色々と衝撃だったらしい
川越鉄道―現在の国分寺と新宿の会社だ―と仲が悪かったこと
「アンタ、仲がいい会社無かったのかよ…」
「うっ、うるさい…っ、当時は若気の至りというか…っ、怖いものなしだったというか…」
「あーあー、いいよいいよ、今でも見てればわかる
アンタ、人づきあい苦手そうだもんな」
「これでも拝島のお陰で改善された方だ!」
そんな話から、拝島―当時は小平という名前だった―と出会った時のこと
国分寺や新宿と仲直りのようなものをしたこと
4人で過ごし始めた時のこと
『池袋』という名前をもらったときのこと
―― そして、話は、そこで途切れた
「…すいぶん、長く話してしまったな」
開け放った窓の外では、満天の星が瞬いていた
「色々聞けて良かった。 楽しかったよ」
冷めた湯のみに、急須に残ったお茶を注ぐ
冷めてしまった上に、かなり渋くなっていたが構わずに飲みほした
「ずいぶん長いこと…生きてきたんだな」
何気なく呟いた池袋の視線が窓の外を見ていることに気がついて、西武秩父も追うようにそちらを見やる
「だが、その窓から見える星は変わらない
長い長いとわたしが思っても、星にとっては一瞬なのだろう」
その片目は酷く遠くを見ていて、西武秩父は寂しくなった
彼の心がとても遠く、それこそ見つめる星の先にあるような気がして、悲しくなった
「一瞬だとしても、アンタは生きてきたんだろ」
離れて行ってしまいそうな池袋をつなぎ止めるように、西武秩父はその視界に押し入り、彼と視線を合わせる
「アンタは、笑って泣いて、ケンカして仲直りして、生きてきた
そして、これからも生きていく」
池袋は、視界いっぱいに広がる西武秩父の顔を、眼を丸くして眺める
そして、不意に笑った
「そうだな
そして、これからは、お前も一緒に居てくれるんだな」
「おうよ、アンタの路線の続きにオレが居る」
西武秩父が力強く頷くのを見て、池袋は声をたてて笑った
「そうか、続き。 続きか」
あははと、心から嬉しそうに彼は笑った
「アンタが声をあげて笑うのを初めて見たよ」
「そうか、わたしも久しぶりだ」
池袋に釣られるように、西武秩父も声をたてて笑った
叶わないだろう事を西武秩父は思った
この先、自身が彼の隣に居ることで、少しでも彼に笑みが増えればいいと、
叶わぬ夢を、彼は抱いた
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西武秩父×池袋っていうよりは、
西武秩父は池袋のナイトだなって話なのかもしれない
王子様じゃなくて騎士
救い手じゃなくて、守り手