※ とりとめのない話 ※
※ 少しだけやらしいです ※
南北は、口付けが好きだと思う
事あるごとにそれをねだり、触れるだけの稚拙な交わりで幸せそうな笑みを零す
「眠り姫がどうしてキスで目覚めるか知ってる?
嬉しくて飛び起きてるんだよ」
じゃあ、口付けの直後に額をぶつけるのが目覚めの習わしなんだな
オレがそう言うと、南北は楽しそうに笑った
そして、一度口付け、コツリと額を重ねた
「ロマンのかけらもないね」
南北は微笑みながら、もう一度口付けた
南北は、口付けが好きだと思う
その唇はいつ触れても柔らかく、潤っていて、心地いい
もしかしたら、女性のようにちゃんと手入れをしているのかもしれない
触れるだけでは足らず、軽く下唇を食む
「噛んじゃ駄目」
呼吸のために顔を離した僅かな時間で、南北は笑う
駄目と言っておきながら、再度口付けた時には、南北の方がオレの唇を噛んできた
少し手加減が足りなくて、棘が刺さるような痛みが走る
「ごめん、東西みたいに上手にできないや」
南北はまた触れるだけの口付けを落とす
その唇は、やはり柔らかくて、心地いいものだった
南北は、口付けが好きだと思う
彼の上に覆いかぶさり、何度も何度も口付けを交わす
「1回セックスする時間で、100回キスした方が楽しいよ」
もう服も脱いでしまっているのに、それ以上の事はしなかった
ただ、南北が笑うまま、なんども彼に口付けた
あの一瞬を目指すだけの行為より、数え切れないほどの口付けを交わす行為の方が有意義に思えた
「有意義だなんて、利益的な考えはやめてよ
もっと情緒的に考えて」
情緒ねぇ、と漏らしながらもう一度口付ける
「東西のキスがあれば、僕は居眠りなんてしないのに」
オレの口付けは目覚まし扱いか、そっちの方がよっぽど情緒がない
南北はクスクスと笑う
「ずっと傍に居て、もっとキスをして、って意味だよ」
要望通り、その夜は飽きる事もなく口付けを交わした
目を閉じた南北の顔にそっと手を添え、ゆっくりと顔を近づける
触れる直前に、己も目を閉じた
柔らかくて、潤った心地よい唇と重なる
ただ、身体の一点が触れ合っているだけなのに、この上なく満たされた気持ちになる
一度、唇を離すと、それを追うように、今度は南北の方から口付けをしてきた
そんな往復を何度も繰り返す
南北は、口付けが好きだと思う
オレは、南北とのキスが好きだ