※ 拝島さん、誕生日おめでとう ※
※ (多摩湖鉄道小平線判定) ※
※ ささやかな感じですが、お祝SS ※
※ 何より、1日遅い ※
「お出かけしましょう、拝島!」
業務を終え、さて夕食を作ろうとエプロンを身につけ、腕を捲った拝島の手を西武有楽町が引いた
「どうしたんだい、突然?」
首をかしげつつ、膝を折り、西武有楽町と視線を合わせる
「ぅ、あの、あの…!」
幼子は視線を彷徨わせて、両手を落ち着きなく動かす
「何かあったの?」
「うー、うぅー…、うー」
優しい顔で拝島が問いかけるが、西武有楽町は追い詰められてしまったように目元を潤ませる
「あのな、コレの引き換えが今日までなんだよ」
そんな後輩を庇うように西武秩父が横から顔を出し、何かチラシを渡した
「引き換え?」
拝島は立ち上がり、西武秩父からそれを受け取る
チラシにはナイトキャップを被った可愛らしいクマのイラスト
「ほら、このマグカップのキャンペーン
ポイントがせっかくたまってるのに貰わないのはもったいないだろ」
確かに台紙にもなっているチラシにはポイントシールが規程値分貼られている
「だから駅前のコンビニまで有楽町と一緒に行ってくれないか?」
西武秩父からの申し出に拝島はふむと唸るが、すぐに申し訳なさそうな顔をしてチラシを彼に差し出す
「私は今から夕飯を作らないといけないから…、
すまないけど、手が空いているなら秩父が一緒に行ってやってくれないか?」
「ぐっ」
その言葉に西武秩父は言葉を詰まらせる
「ぐ?」
その反応に拝島はまた首を傾げる
「えぇーっと…、オレは…オレはだな…、えっと…」
唸りながら視線を彷徨わせる
「秩父はオレと、明日の準備をするんだ」
冷や汗を滲ませる西武秩父の肩に手を回したのは国分寺だ
「ほら、明日は入間の航空祭りがあるだろう?
それの臨時便について、アレをアレしないと、アレだろう?」
「そっ、そう! アレがアレだから、アレなんだ!」
なっ、と同意を求める国分寺に西武秩父はコクコクと頷く
「…アレって…?」
あまりに不可解な理由を追及しようと拝島が口を開きかけたが、彼の腕を再度、西武有楽町が引いた
「お出かけっ! しましょう! 拝島!」
「行って来い、拝島!」
「いってらっしゃい、拝島!」
「……え、えっと…」
結局、押しだされる形で、拝島はコンビニのキャンペーンのチラシを片手に、
西武有楽町と出かることになった
今日は池袋と新宿は遅いらしいから、夕飯はやはり自分が作らなくてはいけない
帰宅後から予定したものを作っては、食べる時間が遅くなってしまう
何かメニューを簡単なものに変更して…
「えっと…、ごめんなさい、拝島…」
手を引かれる幼子は、思案を巡らす拝島の横顔を見て僅かに項垂れる
「謝ることはないよ
お前が何か欲しがるのは珍しいことだしね」
そう言って、手にしたチラシを見直す
しかし、こういったキャラクター商品を欲しがるのは初めてだ
むしろこういったものは、新宿が好きなモノなのだが…
歩きながら、何気なく視線を紙面に滑らせていく
「…ん?」
そして、捺印されたコンビニの店舗名を見て思わず声を洩らす
住所が高田馬場だ
更には、引き換え期限は11月9日まで
今日は、11月2日なのだから、1週間も期限があるではないか
そう、今日は、11月2日
「――あ、」
拝島は間の抜けた声を零し、足を止める
「えっ」
急に止まった拝島に、西武有楽町が不思議そうな視線を送る
「……」
「え、えっと、え?」
無言で見つめてくる拝島に戸惑い、子供はまた繋いでいない方の手を落ち着きなく揺らす
「…もしかして、有楽町…」
「はいっ、なんですか?」
拝島は思考を巡らせる
取ってつけたような用事で家を追い出された
思えば、入間航空祭りの準備には、西武秩父はさておいても、沿線と関わりのない国分寺は不要だろう
池袋と新宿は、そう言えばどうして遅くなるんだ、理由を聞いていない
本当に彼らは遅いのか?
よくよく思い出せば、冷蔵庫の中に買った覚えないのない食材があった
あれはなんだろう?
「……私は、どれくらいで帰れば平気かな?」
拝島は呆れたような、少し困ったような顔で問いかける
「あ、えっと、準備が出来たらメールするって言っていたので、そうしたら…
あ、いえっ、違います! 今のは嘘ですっ、嘘なんです!」
うっかりと漏らしてしまった事情を西武有楽町は慌てて否定する
「そうか、そうか、嘘なんだね」
子供の拙い言い訳に拝島は笑う
「そうですっ、嘘なんです!」
彼の納得したような素振りに、西武有楽町は強く頷く
「じゃあ、ゆっくり行こうか」
子供の手を揺らしながら、拝島は速度を落として歩きだす
「どうしたんですか、拝島?」
拝島の緩んだ表情に気づいてか、西武有楽町が問いかける
「なんでもないよ、なぁんでもない」
そう言いながら、小さく笑ってしまった
出来れば、後少し、準備に時間がかかって欲しい
今の状態では、驚いた顔が出来るか心配だった
きっと、笑ってしまう
今でさえ、もう、笑ってしまっているのだ
家に帰って、クラッカーでも鳴って、目の前に皆がいたら、
きっと、嬉しくて、嬉しくて、笑ってしまう
だから、家路がもう少し、長ければいい
もう少し、この幸せな気持ちを味わっていたいから
=============================================
誕生日おめでとう、拝島さん
これからも、対JRへの最終兵器として頑張っていただきたいです!