※ ちっちゃい子を構ってみたくなった ※
その子供は、時折、オレの帰りを待っているらしい
まだ、自分の腰程度の身長しかない幼子なのだから、毎日というわけではないが、
時には誰かに構ってもらいながら、
時には一人で本を読みながら、
翠色の大きな目を擦りながら、オレの帰りを待っているらしかった
子供は帰ってきたオレの姿を見ると駆け寄ってきて、じぃっと見上げてくる
「ただいま」
オレが膝を折り、頭を撫ぜると、コクリとひとつ頷いて自室へと帰っていった
待っていてくれる子供へ、なにかお礼をすることにした
人にモノをあげることなど滅多になく、逆など皆無に等しいオレは、
考え抜いた末にコンビニでプリンを買うことにした
考えたものの、子供はお菓子が好きだろうという結論しか出なかったわけなのだが・・・
いつものように駆け寄ってきた子供の頭を撫ぜる
「ただいま」
コクリと頷いて、背を向けようとした子供の手をとり、ビニール袋ごと渡す
「お土産」
子供は目を丸くして、ビニール袋からプリンを取り出す
初めて見たわけでもないだろうに
それでも、子供は目を宝石のように輝かせて、それを見つめた
「今食べちゃ駄目だぞ、明日食べな」
オレの言葉に、元々赤い頬をより赤く染めて、子供はコクリと頷く
その顔があまりに愛らしかったものだから、オレはもう一度その頭を撫でた
それから、プリンを買うのが習慣となった
『今日も寝ないで待っているよ、早く帰っておいで』
そんな連絡を受けて、オレは足早に行きなれたコンビニへ入る
いつものプリンを買おうとして、その隣の大きなプリンが目に入った
給料日後の暖かな懐が、そちらのプリンを選ばせた
いつものように駆け寄ってきた幼子の頭を撫ぜる
「ただいま」
コクリと頷いた子供の手をとり、ビニール袋ごと渡す
「お土産」
いつものようにビニール袋に手を入れると、子供は驚いたように目を丸くした
小さな手のひらヒトツでは持てず、掲げるように両手で大きなプリンを持つ
そして光る瞳でオレの顔を見返す
「今食べちゃ駄目だぞ、明日食べな」
いつもの言葉を言うと、幼子は大きくコクリと頷いた
翌日、冷蔵庫を見ると、プリンが半分残っていた
大きいものを買ってきてしまったものだから、食べ切れなかったのだろう
もしかしたら、夕飯が食べられなくなるからと他の人に止められたのかもしれない
後者であったなら、駄々をこねただろうと想像して、自分の浅慮を反省する
次は、いつものプリンを買ってきた
翌日、冷蔵庫を見ると、プリンが半分残っていた
毎度毎度、プリンなのだ
いい加減、飽きてしまったのかもしれない
もうヒトツ反省して、オレはエクレアを買うことにした
翌日、冷蔵庫を見ると、エクレアが半分残っていた
好みではなかったのかもしれない
次はティラミスを買うことにした
翌日、冷蔵庫を見ると、ティラミスが半分残っていた
翌日、冷蔵庫を見ると、スイートポテトが半分残っていた
翌日、冷蔵庫を見ると、大判焼きが半分残っていた
翌日、冷蔵庫を見ると、タルトが半分残っていた
翌日、冷蔵庫を見ると、モンブランが半分残っていた
翌日、冷蔵庫を見ると、シュークリームが半分残っていた
オレが買ってきたお菓子のことごとくが、半分残っていた
子供は甘いものが好きだという思い込みから、お菓子を買い続けてきてしまったが、
実は子供は甘いものが嫌いなのかもしれない
オレに義理立てて、半分は食べるが、半分は食べたくないのかもしれない
しかし、「半分残し」を確認した次の日にはそれは無くなっている
まさか捨てていることはないだろう
渾身の思いで買ってきた有名菓子店のショートケーキについては、上にのったイチゴに至るまで
綺麗に半分残されており、流石に首をかしげることとなった
「あぁ、「半分残し」? 最初からだよ、アレ」
藁にも縋る思いで、よく面倒を見ている仲間に尋ねると、あっさりと答えが返ってきた
「お前が買ってきたお菓子、一口二口で食べられるものでも絶対に全部食べないで、半分残しとくんだよ
駄目になる前にちゃんと自分で食べてるみたいだから、特に注意はしてないけど」
・・・なんで?
「さぁ? リスとかの習性みたいなものじゃない?」
・・・・・・備蓄はねぇだろ・・・
いつものように駆け寄ってきた子供の頭を撫ぜる
「ただいま」
コクリと頷いた子供の手をとり、菓子屋の箱を渡す
「お土産」
子供が嬉々と箱を開ける様子に思わず笑みを零す
今日のお菓子はプリン・ア・ラ・モード
プラスチックの器の中で彩られた甘味に子供は目をきらめかせる
そして、その目がオレを見た
「今食べちゃ駄目だぞ、明日――」
いつもの言葉を言おうとして、オレはその瞳を覗き込んだ
嬉しさだけじゃない
少しだけゆれる、翠の光
「――南北」
オレが名前を呼ぶと、子供はきょとんと目を丸くした
――ああ、そうか
不意に、気づいた
子供は待っていたんだ
「明日、半分こして、一緒に食べようか」
オレの言葉に、子供の顔が一瞬驚いて、でも次の瞬間、満面の笑みに変わる
「うん、東西と一緒に食べる!」
その顔があまりに愛おしかったものだから、オレはもう一度その頭を撫でて、小さな身体を抱きしめた
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ご本家のWIMを踏まえて
今も昔も、南北は東西と一緒に食べたいんだぜ!