※雰囲気小説※
南北の部屋を訪れると、そこには部屋主の姿はなかった
はてと首を傾げつつ、室内を見渡し、耳を澄ませる
ちゃぷん、と水音が響いた
あぁ風呂に入っているのかとひとつ頷いて、彼の湯上りを待つべく、
散らかっている雑誌を数冊手に取り、適当な場所に腰を下ろした
1冊目の雑誌は男性ファッション誌
シーズン毎に新しいものが出る服飾業界は、流行のものが好きで飽きっぽい彼を定期的に楽しませてくれるのだろう
自分にはとんと理解できないため、綺麗な写真だけ眼に収めて、脇に積む
2冊目の雑誌は地域情報誌
特集が電車で行ける遊びスポットだったので買ったのだろう
これには自分も興味があり、1ページ目から読み始める
浴室からはちゃぷんちゃぷんと水音が響いている
思わず夢中になって雑誌を読みふけってしまった
読み終えたそれを積み、時計を確認する
思った以上の時間がすぎていた
何気なく浴室へ続くドアへ目をやるが、南北はまだ風呂から出てくる気配がない
気がつけば水音も絶えている
流石に不信に思い、立ち上がって浴室へ足を向けた
「おーい、南北」
ドアをノックし、声をかけるが返事がない
死んでいるとは思わないが、寝ている可能性は十二分にある
ため息をひとつこぼして、ドアノブへ手をかけた
「南北」
浴室のドアを開けると、湯煙と共に甘い香りが広がった
南北は自分の顔を見ると、ヘラリと笑う
「やだ、えっちぃ」
浴槽の中で恥らうように両腕を胸元に寄せる
しかし、入浴剤を入れているのか、浴槽に溜まったお湯は乳白色に染まっており、その素肌は元より見えていない
「馬鹿なこと言ってんな」
呆れて肩を竦める
「ずいぶん長風呂だから見に来ただけだ。呼んだんだから、返事ぐらいしろ」
口早に伝えて、ドアを閉めようとする
「ちょっと待って」
しかし、南北はそれを制して、手招きをした
「?」
呼ばれるままに、浴槽の傍らに歩み寄り、彼の顔を見下ろす
「困ったことになったんだよ」
南北は浴槽の縁にあごを乗せ、自分の表情を伺う
「どうしたんだ?」
問いかけると、彼は水面に指先を滑らせた
「実は僕、海から来た人魚だったんだよ」
ニコニコと笑って告げられた言葉に、眼を丸くする
「魔法で尾ひれを足に変えていたんだけど、それが解けちゃって
足が尾ひれに戻っちゃったから、水から上がれないんだ」
告げられる言葉を受け止めながら、ぼんやりと乳白色の湯船に沈んだ南北の尾ひれを思った
その白い腰から続く、瞳と同じエメラルドグリーンの鱗
それが大きく振れて、水面を叩く
「それは困ったな」
「困ったでしょ?」
そう言いながら、南北は楽しげに笑う
そして、濡れた手を自分へ伸ばす
「ねぇ、こっちに来て」
言葉に従い、服が濡れるのも構わず膝をついて、顔を寄せる
スルリと腕が首へ巻きつく
そして、ニコリと笑った口元がキスをした
勢い良く圧し掛かってきた身体に耐え切れず、南北の裸身を抱き寄せるような形でタイルの床に背中から倒れこんだ
湯船から引き出された南北の腰から下には、1対の足
唇を離すと、南北は自分の胸元に縋りつき、クスクスと笑う
「君のキスで、人魚から人間になれたよ」
湯の滴る足をゆらりと揺らして、もう一度唇を重ねた
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自分の萌えシチュ『浴室』
きっと、また書く